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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和38年(ラ)1号 決定 1963年6月27日

抗告人 茂田勝吉(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。よつて判断するに、たとえ僧侶の分限を取得し法名を称していても、宗教活動がその者の社会活動の主要面を占めることなく、単に一部に過ぎない場合は、戸籍上の名を法名に変更する正当の理由とはならないと解する。けだし戸籍上の名が権利義務の主体をなす人の名称として社会的に重大な意義を有することにかんがみると、単に社会活動の一部に支障があるということだけでは、名の変更を認める合理的必要性が乏しいのみならず、社会の利益に合致しないと考えられるからである。抗告人の宗教活動が原審判の判示する程度のものである以上(本件記録によれば原審判の右判示は相当であると認められる。)抗告人の社会活動の主要面は公務員としての生活にあり、宗教活動はその一部に過ぎないと認められるから、前記理由により本件改名許可の申立は理由がないというべきである。よつてこれを却下した原審判は相当であり、本件抗告は失当であるから、これを棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩崎光次 裁判官 野田栄一 裁判官 宮瀬洋一)

別紙

抗告の理由

一、抗告人が申立にかかわる宮崎家庭裁判所昭和三七年(家)第七一一号名の変更許可申立事件について同裁判所は昭和三七年一二月二四日付抗告人に対して本件申立を却下する審判をなし同年同月二五日抗告人にその旨通知がありました。

二、右審判の理由は、申立人は予てから仏教を信仰し昭和三二年四月八日大日蓮宗々制により僧侶の分限を取得し、「信」の名を受けたが同人は公務に従事する者で将来退職後において僧侶としての職に従事する希望を有すること。

僧籍に入つてからは毎過末に上行寺に通つて信仰を深めているほか寺の行事に参加する程度で、仏事を取り行い、民衆と接して宗教活動を行うなど、僧侶としての社会生活を営んでいる者ではないから改名について正当の事由があるとは認められないという理由で本件を却下したが、仮りに専ら仏事をとり行わなくとも民衆に接し宗教活動を行わずとも且又僧侶としての社会活動を営んでいないとしても広く僧侶として分限を解釈しこれを取得した上は右の理由は却下理由として不服であるので、この抗告に及んだ次第であります。

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